第6章 血縁淘汰と家族の絆
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1. 血縁淘汰
助け合いの進化
実際に動物たちは自然界で様々な協力行動や利他行動を示している ミツバチなどの社会性昆虫のワーカーは、有名な蜂の一刺しによって外敵を刺し殺し、コロニーを守る 行動が他個体に与える利益と損失
table: 行動が、そのやり手と受け手に及ぼす影響
行動のやり手 行動の受け手 行動の名称
0 - -
0 + -
+ 0 -
- 0 -
0 0 -
ある個体が行動を取り、それが他個体の適応度に対して何らかの影響を与えるとき、理論的には9通りのやり方がある
行動のやり手・受け手双方が適応度上の利益を得る行動
オオカミがみんなで集まって狩りをすれば、単独で狩りをするよりも大きな獲物が取れる
ペリカンが一斉に輪になって魚を捕る
相互扶助は、その時その場で誰にとっても適応度上の利益になるので進化する 進化するためには、行動の結果が双方にとって本当にプラスになっていないといけない
集団で狩りをしても一頭が独占したのでは、協力行動は消えてしまう
行動のやり手が適応度上の利益を得て、行動の受け手は損失を被る行動
資源の獲得に関して競争がある場合には、ある個体が資源を得ると他個体は資源を得られないことがよくある
闘争で勝った個体が資源を独占し、負けた個体を排除することもある
利己的行動をする個体に適応度上の利益が生じる限り、利己的行動は進化し得る
行動のやり手にとっても受け手にとっても適応度が下がるような行動
適応度を上昇させる個体がいないので進化しない
行動のやり手または受け手に対する影響はなにもない行動もあるけれども、どちらかにとってはマイナス化プラスの効果のある行動もある
同種の個体間での行動に対して、どちらかに対する影響がゼロであるものは、偶発的な行動であるか、あまり適応度上に意味のない行動であるのでここでは取り上げない
行動のやり手は適応度上の不利益をこうむるにもかかわらず、その子魚津の受けては利益を受けるような行動
行動のやり手の適応度が下がるのだから、簡単に進化するとは考えられない
しかし、利他的行動は自然界に見られる
包括適応度と血縁淘汰
個体Aが、自分との共通祖先に由来する遺伝子を共有する血縁者Bに対して、なんらかの利他行動をする遺伝子があると考えてみる
個体Aはその行動の結果、自らの適応度を$ cだけ減少させるが、そのおかげで個体Bの適応度が$ bだけ上昇するとする
AとBとがどれほど血縁度が高いかを$ rで表すことにする
個体の適応度は、その行為によって$ cだけ下がるが、血縁度$ rの個体Bは、その同じ遺伝子を共有している確率が$ rあるので、その個体が受ける適応度の上昇分に$ rをかけた積の分だけ、その遺伝子は残ることになる
個体Aが何もしないときの適応度を$ 1とすると、個体Aがこの行動をした結果としてその遺伝子の適応度は$ 1 - c + r \cdot bとなる
$ 1 - c + r \cdot b > 0のとき、このような行動をしないときよりも包括適応度が上昇するので、この行動は進化することになる
この式は関係する個体間の血縁度$ rの値が大きいほど、血縁者に対する利他行動は進化しやすく、また個体が払うコストが小さいほど、利他行動は進化しやすいことを示している
血縁者間での利他行動が進化すること
ここで注意すべき点は、これが、共通祖先に由来する遺伝子の共有の確率に着目した理論だということ
一般に動物間で見られるDNAの配列の類似度とは異なる
ヒトとチンパンジーは、そのDNAの98%以上を同じくしているが、それをもってヒトとチンパンジーとの間で血縁淘汰が働くということではない
互いに交配しないので、同祖遺伝子を共有することはない
血縁度$ rの測り方
血縁度$ rとは、2個体の間で、同じ祖先に由来する特定の遺伝子を共有しあう確率 二倍体の生物では、精子や卵は減数分裂によって作られるので、親の遺伝子が子に伝わる確率は50% したがって両親に血縁関係がなければ、親子間の血縁度は$ 0.5になる
両親とも同じきょうだい間の血縁度は父親経由の場合($ 0.5 \times 0.5)と母親経由の場合($ 0.5 \times 0.5)の和で、$ 0.5となる
配偶者間に血縁関係がない場合の、$ rの一般的な求め方
対象となる2個体とその共通祖先の関係を系譜図で描き、線で結ぶ
上に述べたように親子間の血縁度は$ 0.5である
2個体が$ L個の線でつながれているなら、特定の遺伝子を共有する確率は$ (0.5)^Lである
複数の経路がある場合は、各経路の確率を加算する
すなわち、$ r = \Sigma (0.5)^Lとなる
動物における血縁淘汰
ハミルトンは、血縁淘汰説を社会性昆虫に見られる利他行動にあてはめて考えた
メスは普通に受精卵から誕生するが、オスは未受精卵から生まれる
メスの染色体は倍数体生物と同様に対になっているが、オスの染色体は対にはならない
姉妹は母方由来の遺伝子を50%の確率で共有するが、父方由来の遺伝子は同一なので姉妹間の平均血縁度が$ 0.75となる
すなわち、ハチのメスにとって、姉妹間の血縁度は自分の娘との間の血縁度($ 0.5)よりも高くなる
ワーカー同士の間の血縁度が$ 0.75であるからということでこう呼ぶ
しかし、近年の研究によると、4分の3仮説では、多くのハチ類の不妊ワーカーの存在は説明できないようだ
4分の3仮説が成り立つためには、女王もその配偶雄も1匹で、すべてのワーカーが同じ親の子でなければならないが、多くの場合、女王が複数居たり、女王が交尾する雄も多数いたりして、この前提が成り立っていない
なぜ不妊のワーカーが存在するのかというと、血縁とは別に、コロニーを守る方が、自分で繁殖するよりも有利である事情が他にあるからのようだ
哺乳類や鳥類のような倍数体の動物でも、血縁淘汰が作用している例は数多くあげられる
ベルディングジリスという齧歯類は、巣穴を安全基地として草原を利用するが、捕食者に対しては警戒音声をあげて仲間に注意を喚起する この警告音声は血縁個体が近くにいる場合に有意に多く発せられる
マカクやヒヒなど群れ生活する霊長類では、母系のつながりのメスたちが強い絆を持つことや、母親を失った孤児や姉やおばなどの保護を受けることが知られている ヘルパーは、自らの繁殖機会を犠牲にして血縁者を援助する
このような行動は若い個体が独り立ちして自ら繁殖するコストが大きい環境でよく見られる
ハダカデバネズミは、餌の入手が困難でかつ捕食者に囲まれているというきわめて厳しい生息環境の下で、高度な社会性を発達させた 100頭を超える集団を形成するが、その中で繁殖できるメスは一頭のみで、繁殖オスも数頭に過ぎない
残りの個体は巣穴のトンネルを掘ったり維持したり、土運びをしたり、食物探しをしたりと分業しながら繁殖個体を助けている
若いハダカデバネズミにとって、新たに行動圏を広げて独立するのは極めて困難なこと
このような社会では近親婚が進み、互いの血縁度が非常に高いことがわかっている 2. 血縁者の認識
「一緒に育てば家族」
一つの方法は「一緒に育った個体は血縁者とみなす」という「なじみの程度」による推定
哺乳類の血縁認識において、一般的にみられるやり方
同じ巣穴で育った個体同士は、普通は同じ親から生まれた兄弟姉妹
ニホンザルなどの霊長類は、母方の血縁に基づく集団が、互いに親密な行動をとり、助け合いながら暮らしている 同じ母親から生まれた兄弟姉妹は、母親を同じくすることにより、互いに親密になる
母親の姉妹=「おば」は、母親が仲良くしている個体なので、やはり親密な相手となる
「おば」の子どもたち=「いとこ」も「母親と仲の良い個体が親密にしている相手」
これでかなり正確に血縁度$ rを推定することになる
近接関係をもとにした血縁認識は、「互いに顔を合わせる事が多い」という行動的指標をもとにした血縁の推定
研究者がある母親の子供を生後ごく初期に取り上げて別の母親の子どもと入れ替えるような実験をすると、そうして一緒に育った個体どうしは、実は血縁関係がないにもかかわらず、あたかも真の兄弟姉妹であるかのような親密さを発達させる
ヒトでは、このことがいわばマイナスに働いていると考えられる例がある
イスラエルの集団農場であるキブツでは、子どもたちは大半の時間を共同託児所で過ごす 家族のきょうだいと同じくらいにキブツの子どもどうしはなじみが深くなる
きょだい間では非血縁者よりも性的魅力が低くなる(近親婚回避の進化メカニズムだと考えられる)が、同じ器物で兄弟姉妹同然に育った異性どうしでは、結婚する確率が非常に低いことが報告されている(Spiro, 1958) 表現型マッチング
自分自身の表現型の一つを尺度とし、他個体におけるその表現型が自分のものとどれほど類似しているかを計ることによって血縁を推定するやり方 例えば、自分自身の臭い(特定の化学成分)はそのような尺度の一つである可能性がある
アリやハチなど社会性昆虫の多くはこの方法をとっている
ハリナシバチの一種は、自分の巣の入り口にやってきた個体に対して、ボディチェックをするが、中に入ることを許可する割合は、ガードしているハチ自身の臭いと訪れた個体の臭いの類似度に依存する ベルディングジリスでは、メスが複数のオスと交尾した結果、ときとして母親の同腹きょうだいの中に異父きょうだいが混じることがある 何らかの表現型マッチングを利用して血縁者を区別していると示唆される
異父きょうだいであっても、非血縁個体に対するよりははるかに利他的に振る舞うので、なじみの効果も同時に働いていると思われる
ヒトの血縁認識に表現型マッチングが用いられているかどうかについては現在のところはっきりした証拠はない
表現型マッチングというよりは、表現型非マッチングとして、ヒトの臭いとMHC遺伝子の関係が注目されるようになっている 免疫系の一部として自己と非自己の認識に関わり、移植免疫において最も強い移植片拒絶反応を引き起こす遺伝子群
MHCは体臭に影響するので、体臭に対する好き嫌いを通して、他のMHC保持者を選んでいると思われる
MHCは血縁者同士で似ているので、同じMHCを忌避する傾向は、結果的に自分と似た臭いを持つ血縁者に対する性的魅力の低下につながっている
スイスの研究者のウェドキンドは、ヒトでも自分と異なるMHC型を持った個体の体臭に魅力を感じるかどうかを調べた 男子大学生に数日間Tシャツを着てもらったのち、そのTシャツの臭いの性的魅力度を女子学生に尋ねた
その他、夫婦間でMHC遺伝子のタイプを調べた研究でも、カップルのMHCタイプが異なるという報告もある
伝統的に、人間の嗅覚は(視覚や聴覚と比べて)コミュニケーションにおいて大した役割を果たしていないとみなされてきたが、無意識のうちに効く体臭情報は無視できない影響力を持っているのかもしれない ともかく、ヒトが何らかの表現型マッチングによって血縁者を見分け、その血縁者に応じて利他行動をしているという証拠はない
人間における親族呼称
人間における血縁者認知のメカニズムとして、より一般的なものは、言語的な親族呼称によるもの
どの文化においても血縁関係を表す単語があり、生物学的な血縁関係と親族呼称の間には、一応の対応関係がある
ヒトの親族呼称は、厳密に遺伝的血縁関係を明示して区分したものではなく、血縁度がかなり異なるカテゴリーの人間同士が、同じ親族呼称で呼ばれることもある
ヒトの社会では、親族呼称を操作し、利用することによって、血縁関係にない個体を含む大きな集団を統制することがしばしばなされてきた
親兄弟を赤の他人とは区別して神話的な行動の対象とするからこそ現れる現象だと言える
3. ヒトにおける血縁淘汰
南太平洋諸島における養子取り
オセアニアの諸社会では、血縁、非血縁を区別せずに養子にすることをあげ、ヒトでは血縁度に応じた利他行動は働いていない、それらはすべてその文化の持つ価値観によるのだと主張した
これらの社会において非血縁者を養子にすることは事実
J.シルクは、オセアニア諸島の11の社会で養子と養い親の血縁度をより詳しく調査した その結果、養子の大半は養父母と$ 0.125以上(甥、姪、いとこおよびその子など)の血縁者であることがわかった(Silk, 1980) この社会でもやはり、血縁者を養子にすることが基本形だった
シルクは、少数派である非血縁の養子については、伝統社会(特に農業社会)では子どもは重要な労働力であり、労働力の足りない小家族ほど、養子を迎えることが多いのではないかと考えた
分析の結果、小家族は大家族よりも多くの養子取りをしていた
現代のアメリカなどでは、子どものいない夫婦が養子を取ることがよくある
このような行動も、しばしば人間社会生物学に対する反証としてあげられる
これらの一見非適応的な行動は、より強力な適応行動の副産物であると考えることができる
子どもへの動機づけは、それ自体、適応度の上昇に直結する適応的な心理メカニズム
このような動機づけを持っている人は持たない人よりも、平均すればより確実に子を作ることができ、子の生存率をより高めることができる
この行動は霊長類や鳥類など他の動物でもしばしば見られる
子に対して愛情を抱くメカニズムは進化的なエラーではなく、適応そのものだから
自分自身の子供がたくさんあるおんい、それらを捨てて他人の子どもを養子に取りたいと思う人は居ない
母方の伯父による養育援助
文化人類学者たちは、多くの伝統社会で、子どもと母方の伯父の間に緊密な関係が見られることを報告してきた
西カロリン諸島のイフォークの子どもは、父親とではなく母方の伯父と一緒に暮らす 母親にとっては、赤ん坊が本当に自分の子であるかどうかは、(現代の病院の事故を除けば)間違いなく確認することができる
父親の確からしさには、つねに不確定性がついてまっわり、それは性関係が自由な社会であるほど大きくなる
同じ母親から生まれたきょうだいは、確実にきょうだいなので、ある子とその母親の兄弟である伯父の血縁度がゼロということはない
母親と伯父が同父きょうだいなら$ 0.25、異父兄弟なら$ 0.125
アレグザンダーは、妻の生んだ子のうち4人に1人しか夫自身の子ではない可能性がある場合、夫にとって、妻の子との平均血縁度よりも姉妹の子との平均血縁度の方が高くなることを示した
男と妻の子との間の平均血縁度
妻の子のうち実子である確率 × 実子親子間の血縁度
$ \frac{1}{4} \times \frac{1}{2} = \frac{1}{8}
男と姉妹の間の平均血縁度
(同父の確率 × 同父きょうだい間の血縁度) + (異父の確率 × 異父きょうだい間の血縁度)
$ (\frac{1}{4} \times \frac{1}{2}) + (\frac{3}{4} \times \frac{1}{4}) = 5/16
男と姉妹の子(おい、めい)の間の平均血縁度
男と姉妹の間の平均血縁度 × 母子間の血縁度
$ \frac{5}{16} \times \frac{1}{2} = \frac{5}{32}
父性の確からしさ(paternity)が1/4という仮定は低すぎるように思えるが、イフォークのように性の開放的な社会ではありえない数字ではない ヤノマモの戦争における助け合い
血縁を基盤とするいくつかの集団に分かれて暮らしており、異なる集団間には強い葛藤が存在する
N.シャグノンらは、大掛かりな戦争に発展したときに、男たちが誰と助け合うかを調査した 敵対する集団どうしの間は、同じ集団内部の個体どうしの関係よりも、血縁度が低くなっている
しかし、同じ集団に属する個体でも、より血縁度の高い者どうしもいれば、それほどでもないものもいる
事前のインタビューでは、彼らは戦いになったら、誰でもみんな平等に助け合うのだと口々に述べた
戦いが始まったときにシャグノンらがその様子を逐一フィルムにおさめ、あとで誰が誰と助け合っているかを分析したところ、男たちは、ほとんどその血縁度である$ rに比例して、互いに助け合っていた(Chagnon & Bugos, 1979) チベットの一妻多夫
男性は妻が他の男性と性的な関係を持つことに鋭敏で、しばしば非常に強い性的嫉妬を抱く
チベットの一妻多夫では、妻を共有する夫たちが兄弟
チベットのニンバの人々は、険しい峡谷沿ぞいの狭い土地にしがみつくように暮らしている このような生態条件では、兄弟が分家をする余裕はまったくない
多くの社会では、次男以降の男たちは都市に出たり他の地方に渡ったりするが、チベットでは出ていく先もあまりない
近代以前の(とくに父系)社会ではしばしば、血縁者間で妻が相続されたり贈与されたりすることがった
伝統社会においては、義理の親族関係にあたる男性は夫以外でもっとも身近な潜在的な配偶者であったといえる
動物界を見ると、血縁度の近いオスたちが繁殖上の協力関係を結ぶことは、チンパンジーやライオンでも知られている ライオンはしばしば同じ群れ出身のオスが連合して、他の群れを乗っ取り、新しい群れの中では乱婚的に交尾する
チンパンジー社会では、オスは生涯、出生した集団で暮らすので、オスどうしはメスどうしよりも血縁関係が近いと推定されるが、彼らは互いの交尾に関して非常に寛容
男性どうしが同じ妻を共有するということは、よほどの事情がない限り、制度として出現しないと予測される
実際、一妻多夫は、ヒトにおいては非常にまれな婚姻形態
一妻多夫が行われるときには、妻を共有する男性どうしが血縁関係にある兄弟だということは、血縁は葛藤を少なくすることに確かに役立っていることを示している
義理関係にある家族メンバーとの葛藤
家族のメンバーは、夫婦の死別や離別などがあるためにしばしば入れ替わり、義理の関係が生じる
予測1: 義理の親は継子に対して、実子に対するほどには投資をしないだろう
義理の親(動物界ではほとんど継父)にとって前の配偶者が残していった継子との間には遺伝的関係はなく、継子に対する養育投資によって包括適応度が上昇することはない 継子は自分自身の繁殖活動の障害になったり、また実子ができた場合には、実子の競争者にもなると予想される
動物界では、再婚や乗っ取りが起きた後の、鳥類、齧歯類、食肉類、霊長類などで、上の予測を支持する証拠が豊富に得られている
極端な場合には継子を殺すことも多くの種で報告されている
ヒトについて言えば、継子は、生物学的な子よりはるかに多くの身体的虐待を受けることが示されている
日本では研究例は報告されていないが、日常表現に差別的な言葉が色々ある(「継子あつかい」「継子いじめ」)
ママコノシリヌグイ: タデ科の逆棘が密集した植物
予測2: 義理の兄姉は義理の弟妹に対して、実の弟妹に対するようには養育援助をしたり、親しく振る舞ったりしないだろう
「再婚」した家族が繁殖すると、きょうだい間にも義理関係が生まれる
血縁度の低下で利他的な行動が抑制されると考えられる
一方の親のみ同じきょうだいは、両親とも同じきょうだいと比べて血縁度は半分に下がる
新しい義理の親が子を連れてきた場合には、義理きょうだいとの間では血縁関係はありえない
義理の兄姉がヘルパー行動を控えることは鳥類では報告されている ヒトの義理のきょうだい関係における直接的なコンフリクトを明確に示した定量的な研究は今の所ない
ただし、義理きょうだいどうしは無視しあうという報告がある
予測3: 継父母は、生物学的な親よりも、継子と繁殖する可能性が高いだろう
血縁関係にあるもの同士の配偶では、生存上有害な劣性ホモ遺伝子が発現しやすい 多くの人間社会で近親婚に対する禁忌がある
家族生活を営む鳥類と哺乳類においても、実の親子間の繁殖はきわめてまれ
しかし、継父母と継子の間では近親婚による不利益がないので予測が成り立つ
ヒト以外の動物では継父母と継子の間の繁殖がしばしば観察されている
ヒトでは、上の予測を直接支持する研究事例はないが、継子は実子よりも親からの性的虐待を受けるリスクがはるかに大きいという報告がある
予測4: もとの繁殖ペアが入れ替わった家族内では家族内関係が不安定で、継子の独立が促進されたり、家族崩壊が起きやすいだろう
家族内の血縁度が下がれば、上の1, 2の理由によって継子の独立が促進されると考えられる
1, 3の理由によって配偶ペア間にも強い葛藤があるので、ペアが別れる可能性も高くなると予想できる
ヒト以外の動物家族ではこれらの予測を検証する報告はない
ヒトの家族では、義理の家族の子は生物学的家族の子よりも早く家を離れることや、再婚カップルは初婚カップルよりその後の離婚率が高く、その確率は継子の数に比例して高くなることが知られている
殺人加害者と被害者の血縁関係
血縁淘汰の理論に基づけば、血縁関係は個人間の葛藤をやわらげるはずなので、相手を殺すまでにいたる強い葛藤は、血縁者間では非血縁者間でよりも少ないと予想される
デイリーとウィルソン(Daly & Wilson, 1988)は、資料のある9つの社会について、殺人の加害者と被害者との間の平均血縁度と、殺人に共犯者がいる場合の共犯者どうしの間の血縁度とを比較した 予測: 加害者と被害者の血縁度の方が、共犯者同士の血縁度よりも低い
分析されたどの社会でも、共犯者間の平均血縁度は$ 0.08から$ 0.50であるのに対し、加害者と被害者との間の平均血縁度は$ 0.01から$ 0.09と、非常に低いことがわかった
これらの社会では、葛藤状況が殺人にまで至るようなことは、主に非血縁者同士で生じ、葛藤があったとしても、血縁者同士が殺し合うことは実際には少ないということを示している
注意することは、養子と継父母の関係や、殺人加害者と被害者の関係など、実社会での具体例に関する問題
母集団間での統計的な差異を示しているのであって、個々のケースが必ずそうだということではない